先天性股関節脱臼
どんな病気?
どうして脱臼するの?
脱臼しやすい股関節で生まれてきた児が、間違った方法で育てられることによって、徐々に脱臼が進行します。出生時に脱臼していることは少ないので、最近は「先天性股関節脱臼」ではなく「発育性股関節形成不全」と呼ばれています。
脱臼しやすい児とは?(リスク因子)
間違った育て方とは(環境因子)
① 股・膝関節を強く伸ばして筋肉を緊張させる。
② 股関節を固定して自由に動けなくする。
この2つがあてはまるような育て方をすると脱臼しやすくなります。単殿位の逆子に脱臼が多いのは①が原因です。おむつの種類や付け方、服の選び方、抱っこのしかた、向き癖への対処などが重要です。詳しくは「脱臼しない育て方」をご参照下さい。
② 股関節を固定して自由に動けなくする。
この2つがあてはまるような育て方をすると脱臼しやすくなります。単殿位の逆子に脱臼が多いのは①が原因です。おむつの種類や付け方、服の選び方、抱っこのしかた、向き癖への対処などが重要です。詳しくは「脱臼しない育て方」をご参照下さい。
発生率
症状
外傷による脱臼と違って、脚の痛みや動かしにくさを訴えることはありません。歩き始める時期が遅れることも稀なので、脱臼していても気付かれないことがあります。赤ちゃんの頃に脱臼を疑う症状としては、立て膝(特に向き癖の反対側)、股関節が開きにくい、しわの左右差などがあります。歩き始めてからは姿勢や歩き方の異常で発見されます。詳しくは「自宅でできる股関節チェック」をご参照下さい。
診断
日本では、乳児健診で小児科医が開排制限などの所見から脱臼を疑い、整形外科に紹介されて、そこで画像検査を行って診断されるのが一般的です。出生した児全員に対して、1ヶ月健診の時に超音波検査を行っている病院もあります。いずれにしても確定診断には画像検査が必要です。
画像検査
この病気は早く発見するほど治しやすいので、まだ軟骨でできている股関節でも診断できる超音波検査が主役です。しかし日本では訓練を受けた医師が少ないため、限られた医療機関でしか行われていません。当科では4ヶ月健診に来られた児全員に超音波検査を行っています。
レントゲン
治療
1才以降に発見される脱臼が急増している
健診を受けても発見されず、歩行開始後に診断されて、牽引・手術で治療されている児が毎年100人もいるという事実は、今の日本のやり方に問題があることを示しています。
日本の問題点
欧米では出生直後から何回も脱臼をチェックする健診があり、超音波検査も広く普及しているので、歩き始めるまで見逃されることはほとんどありません。日本では3〜4ヶ月健診が早期発見のほぼ唯一の機会となっています。また、早期発見には必須といえる超音波検査を行っている医師が非常に少ないことも影響しています。これらの要因によって、実に脱臼の6人に1人が歩行開始後に発見されるという状況になっています。
自宅でできる股関節チェック
脱臼しているかどうか、自宅で簡単にチェックする方法をご紹介します。赤ちゃんは裸で仰向けにして、泣いていない自然な状態で観察しましょう。脚の位置・開き・長さ、皮膚のシワを見ます。歩行後のお子さんは、立った時の姿勢・歩き方を見ます。
★動画で見たい方は、以下のYoutube動画が参考になると思います。
シルミルマモル「早期発見!先天性股関節脱臼(2017)」
以下、挿入しているイラストも許可を得てこの動画から使用しています。
★動画で見たい方は、以下のYoutube動画が参考になると思います。
シルミルマモル「早期発見!先天性股関節脱臼(2017)」
以下、挿入しているイラストも許可を得てこの動画から使用しています。
② 脚の開き(開排制限)
股関節の開きにくさ(開排制限)を調べます。両膝を合わせた状態からゆっくり開いていきます。女児 80度、男児 70度以上開くのが正常です。開きが悪いときには脱臼の可能性があります。女児は関節が柔らかいので脱臼があっても開排制限がないこともあります。
股関節の開きにくさ(開排制限)を調べます。両膝を合わせた状態からゆっくり開いていきます。女児 80度、男児 70度以上開くのが正常です。開きが悪いときには脱臼の可能性があります。女児は関節が柔らかいので脱臼があっても開排制限がないこともあります。
③ 脚の長さ(下肢長差)
脱臼した側の脚が少し短くなるのを利用した方法です。仰向けで脚を立て、足底を平らに並べて、かかとをお尻にくっつけます。その時の膝の高さを比べます。差があれば低い方に脱臼の疑いがあります。軽い脱臼ではわからない場合がありますが、差があれば強く脱臼を疑う所見です。ただし、左右差をみる検査なので、両側の脱臼はこの方法ではわかりません。
脱臼した側の脚が少し短くなるのを利用した方法です。仰向けで脚を立て、足底を平らに並べて、かかとをお尻にくっつけます。その時の膝の高さを比べます。差があれば低い方に脱臼の疑いがあります。軽い脱臼ではわからない場合がありますが、差があれば強く脱臼を疑う所見です。ただし、左右差をみる検査なので、両側の脱臼はこの方法ではわかりません。
④ そけい部のしわ
脱臼側のそけい部のしわが深くなることがあります。その場合、脱臼の可能性はありますが、正常でもみられることがあるので、開排制限や下肢長差など、他の所見も合わせてみられるときに検査の対象となります。太もものしわの左右差は正常でもよくあるので、それだけでは検査の対象にはなりません。
脱臼側のそけい部のしわが深くなることがあります。その場合、脱臼の可能性はありますが、正常でもみられることがあるので、開排制限や下肢長差など、他の所見も合わせてみられるときに検査の対象となります。太もものしわの左右差は正常でもよくあるので、それだけでは検査の対象にはなりません。
⑤ 姿勢/歩行の異常
歩き始めてからは、姿勢と歩き方をみます。
姿勢
片足立ちで骨盤の位置をみる
片足でまっすぐ立ちます。正常であれば骨盤は水平ですが、脱臼があると骨盤の筋力低下により、反対側の腰が下がります(イラスト参照)。
右の脱臼なら左が下がり、両側の脱臼なら左右の立っている足の反対側の腰が下がります。
歩き始めてからは、姿勢と歩き方をみます。
姿勢
片足立ちで骨盤の位置をみる
片足でまっすぐ立ちます。正常であれば骨盤は水平ですが、脱臼があると骨盤の筋力低下により、反対側の腰が下がります(イラスト参照)。
右の脱臼なら左が下がり、両側の脱臼なら左右の立っている足の反対側の腰が下がります。
腰とお尻を横からみる
両側に脱臼がある場合、大腿骨頭が後方に脱臼するため、骨盤が前に傾いてしまいます。それを代償するために腰椎が弓なりになる(腰椎過前弯)ので、腰の部分が深く凹み、お尻が出っ張ります。
両側に脱臼がある場合、大腿骨頭が後方に脱臼するため、骨盤が前に傾いてしまいます。それを代償するために腰椎が弓なりになる(腰椎過前弯)ので、腰の部分が深く凹み、お尻が出っ張ります。
脱臼しない育て方
出生直後の股関節は、臼蓋が浅くて不安定な状態です。その後、骨頭が臼蓋の中で自由に動くことで、臼蓋が深くなり脱臼しない股関節に成長します。上手に臼蓋を育てるためには、股・膝関節を軽く曲げた状態で自由に動かせるようにすること、そして無理に関節を伸ばしたり、固定して動きを制限しないことが大切です。特に出生直後〜2ヶ月までが重要だといわれています。
① おむつ
三角/巻おむつではなく股おむつを使って、脚が自由に動かせるようにしましょう。M字型に開けるようにして、伸ばされた状態で固定しないようにしましょう。股関節を開くために、二重おむつで無理やり開いて固定するのは逆効果です。
三角/巻おむつではなく股おむつを使って、脚が自由に動かせるようにしましょう。M字型に開けるようにして、伸ばされた状態で固定しないようにしましょう。股関節を開くために、二重おむつで無理やり開いて固定するのは逆効果です。
便漏れを防ぐために両サイドのテープの幅が広いものがありますが、これをきつく止めると股関節を伸ばした状態で固定されてしまうので、サイドテープの幅は狭いものを選び、きつく締めないようにしましょう。おむつ交換の時には、足先から持ち上げるのではなく、お尻の下に手を入れて持ち上げるようにしましょう。
向き癖はしっかり治しましょう
④ 向き癖を治す
いつも顔が同じ方ばかり向いて寝る「向き癖」と脱臼には関連があります。向き癖があると、反対側の脚が立て膝になるので、股関節の動きが制限されるため脱臼しやすくなるります。脱臼は左側に多いのですが、それは右の向き癖が多いからといわれるほど、強く関連しているので、向き癖は治しておきましょう。
いつも顔が同じ方ばかり向いて寝る「向き癖」と脱臼には関連があります。向き癖があると、反対側の脚が立て膝になるので、股関節の動きが制限されるため脱臼しやすくなるります。脱臼は左側に多いのですが、それは右の向き癖が多いからといわれるほど、強く関連しているので、向き癖は治しておきましょう。
向き癖の反対側から話しかける、授乳を反対側からにする、向き癖側の頭から足先までをバスタオルやマットを利用して少し持ち上げるなどの方法があります。
気になるときは受診を
開排制限などの気になる所見がある方、女児・逆子・家族歴などのリスク因子のうち2つある方は、受診を勧めます。4ヶ月までなら当院でエコー検査が受けられます(予防接種/乳児健診の時間:予約制)。6か月以降の場合は、整形外科を受診しましょう。
おすすめ資料/動画
2022年3月作成